berry daily






 七月三日、偶然にも初夏の港へ。


「宜しかったら、お付き合い願えますか、オヒメサマ、」


 そんな台詞に誘われた。
 サンジ君が指定したのは大通りに面した喫茶店。
 お手並み拝見、なんて高鳴りを覚えながら、煉瓦の歩道を歩く。
 平生よりもほんの少しだけ可愛気の有る服装に、道すがら、買ったばかりのリップグロス。
 多分彼は直ぐに気付く。
 其れが嬉しいのか悔しいのか、今は未だ分からないけれど、
 其れでも今日と言う日は、全てを愛しく感じさせる。


 何よりも大切な人が、
 あんたが生まれたのは今日に決まってる、
 あんたに何より似合う日だ。
 そんな滅茶苦茶を言って、
 今でも其の魔法にかかって居る。
 其れからずっと、何があったって今日は私にとって最も愛すべき日だ。


 からん、とドアベルの音を鳴らして店に入る。
 直ぐに、落ち着いた印象のウェイターが此方に気付いて、
「ご予約のお客様ですね、どうぞ、此方へ。」
 そう言って、柔らかな笑みを浮かべた。
 其れは何となくサンジ君の其れに似て居て、同業者だからかしら、なんて考えた。
 通された席は、先刻私が歩いた通りに面した窓際の席。
 時間と方角の関係上、嫌でも差し込む筈の陽射しは、街路樹に遮られて、木漏れ日の様にテーブルを照らす。
 まるで計算し尽くされた様な光景に、思わず苦笑が漏れた。


 サンジ君を待ちながら、町並みの流れをぼんやりと眺める。
 昔は、私が待つなんて冗談じゃないなんて思って居た。
 待ち合わせの楽しみは、間違いなくサンジ君が私にもたらした物の一つだ。
 其の視線の向こうで、此方に駆けてくる黒い人影を見つけた。
 意地悪な笑みを浮かべて片手を振ってやれば、
「ゴメンッ、」
 と、窓を突き抜けて聞こえて来そうな様子で、片手で謝る。
 其れを見て、私は又苦笑する。
 不意に入り口の方を見れば、先刻のウェイターが同じ様に笑みを堪えて居た。
 レディーにみっともない姿で会うのは許されないから、そんな理由で、ドアの前で二、三秒。
 からん、
 ドアを開けたサンジ君は、いつもと少し違って見えた。
「ナミさん、ゴメン、遅れた。」
 席に着くなり、そう言ってサンジ君は両手を合わせる。
「良いわよ、そんなに退屈もしなかったし。其れに、」
 片目を閉じて、街路樹を親指で指す。
「後二時間もしたら座れたものじゃないわよ、此処。」
 だから謝罪はもう良いわ、と促す。
 サンジ君は有り難う、と顔を上げた。
 少し、ドキリとした。
 先刻の違和感の正体を見つけた。
 汗で張り付いた髪の毛を慌ててかき上げたのだろう、サンジ君の髪型がいつもと少し、違う。
 後ろに押さえ損ねた様な、そんな髪型の所為で、平生は隠れて居る左目が、前髪が動く度に覗く 。
 ウェイターを呼んで、二、三事話して居るサンジ君を見ながら、少し、頬を緩めた。


 オレンジとキウイは私の、
 ラズベリーとライチはサンジ君の、
 それぞれの前に置かれたのは、ブラスの中に果物が浮かぶ、無色透明のゼリー。
 陽射しがグラスの中を通って、テーブルの上を彩る。
 口に含めば其れは、炭酸の感触がする。
 一口食べてサンジ君の方を見ると、独特の赤のコントラストに興味を引かれる。
「一口、頂戴。」
 グラスを此方に傾けさせて、メニューが違うのは此が狙いか、と笑った。


「そう言えば、どうして遅れたの、」
 ゼリーの中のキウイを掬いながら、サンジ君を見る。
「ああ、本当に、ゴメン。反省してます。」
「だから、其れは良いわよ。理由。」
 サンジ君は、あー、と困った様に虚空を見て、
「プレゼント、もう少しすんなり決まると思ったんだけど……、」
「此がプレゼントじゃなかったの、」
「いや、此もそうなんだけど、其れだけだと寂しいでしょ。」
 そう言えば、そうだった。
 船で祝う時は何よりも其の場がプレゼントで、時折言葉で伝えたり何かして、
 そもそも物を送ると言う感覚すら無かった。
「……私としたことが……。」
 何故か脱力感を覚える。
「其れで、時間ぎりぎり迄探してたんだけど、ゴメン、見つかりませんでした。」
 ぺこり、と、子供の様に頭を下げる。
 許してくれる、なんて上目遣いに言われて。
 許してしまう私も相当だ。


「良いわよ、其の代わり。」




 夕暮れの帰り道、
 隣を歩くサンジ君の肩には、恥ずかしい位気障ったらしいバラの花束。
 勿論私に似合う花じゃない。
 サンジ君も其れを気にして居た。


「分かってないわね、」
「どうせ、サンジ君が船まで持って行くのよ、サンジ君に似合わなきゃ仕様が無いでしょう、」


 今日と言う日に溶けてゆく、
 ベリィ・デイリィ。



書けるものだな、二時間で。
其の割に思った感じに仕上がったので満足です。
ハッピーバースデイ、ナミさんvv