10.ドクター

嗚呼、そろそろ俺も死ぬな。
実は本気で考えて居たと言う事実は、考えた瞬間、秘密扱いになった。
つい先日前迄、メリー号が進んで居たのは晩秋に近い海域だった。
(だのに、いきなり、)
半分以上、現以外の世界に旅立った意識の中で太陽を呪った。
正午を過ぎ、上がりに上がった気温はついに体温を超えた。
元々体温が低く、暑さに強い筈の躰は、慣れない発熱に完全に負けて居た。
汲み上げて濾過しただけの筈のシャワーの水が湯気を出した。
其の時点で、サンジは今日一日を無かった事にしようと心に決めた。
気絶する様にソファで眠って居たら、片足が義足の老コックが夢枕に立った気がしたので、
取り敢えず謝っておいた。
日課のトレーニングを終え男部屋に戻ると、ソファでコックが死んで居た。
珍しい事も有る物だ、と其れを眺める。
汗ばんだ頬は紅く、呼吸は浅くて速い。
そう言えば少し前に似た様な物を見た気がした。
(ああ、そうだ。ナミがブッ倒れた時だ。)
あの時は大変だった、等と昔を懐かしみつつ、此のままにして置いてはいけないようだと眉を顰めた。
何せ、今目の前に倒れて居るのは、自分は病気をした事が無いと言い切ったサンジだ。
ナミの時とは違った意味で緊迫した状況に違いない。
ゾロは使命感すら覚えて居た。
午前中は風が通っていくらか涼しかったキッチンは、昼になって差し込んだ日光にサウナと化した。
新たな避暑地を求めて男部屋のハッチを開けたウソップは、立ちこめる熱気に呆然とした。
「おおい、チョッパー。急患が二名だ。」
ソファでは、毛布と布団を何枚も重ねられたサンジが絶望的なうめき声を上げ、
ゾロは其の肩をあやすように叩き続けて居た。
其の日、サンジは火葬場の夢を見た。
デイ・メア