時節唄






 喧騒とか人込みの中を行く行為は、
 何処か恋に似て居る。



 喩えば、
 俺の買出しに積極的にであれ消極的にであれ付いて来る時、
 ゾロは必ず俺より数歩後ろを歩く。
 俺は其れを気配だけで感じながら、
 時折後ろを振り返る。
 迷わぬ様に、見失わぬ様に、
 天性の方向音痴と、俺を初めとするクルー達が苦労して身に付けさせた習慣だ。
 けれど、もしかしたら其れ以外の理由もあるのかも知れない、
 自惚れに苦笑しながら振り返り、
 相変わらず直線でしか俺を見ないゾロと眼を合わせる。
 遅ェよ、
 科白の代わりに口元だけで笑ってやれば、
 煩え、あんま、チョロチョロすんな。
 憮然と、其れでもほんの少し照れた様に返して来る。
 そうして俺は、自分の忙しなさに初めて気付くのだ。



 其れに対して、
 ナミさんは平生隣り合う俺よりほんの少しだけ先を歩く。
 踊る様に、熟考する様に、地面に当り散らす様に。
 彼女の足音はナミさん自身が思って居るよりも正直だ。
 そして、真っ直ぐに俺に向かって手を伸ばす。
 ほら、サンジ君。遅れないでよ。
 其の手は好意其のものにも見えたし、
 彼女の不安にも、強がりの様にも見えた。
 差し出された手を取ると、
 ナミさんはぎゅ、と其れを握り締める。
 其れは時折、
 唯一の絆にすら感じられる。



 アンタって時々、凄く残酷。
 そんな風に、其れ迄握られて居た手を放された事がある。
 其の科白の割に彼女の表情は柔らかく、
 俺は彼女の本意を見失った。



 だろうな。
 酔いに任せて其れをゾロに漏らした事がある。
 ゾロは呆れた様に一言だけ返して来た。
 ごめん、
 ソロの言葉に思わず吐いたのが、謝罪であった事に自分で驚いた。
 其れは俺宛で良いのか、
 そう聞かれて、分からない、と答える。
 ごめん、でも、
 其れ以上は多分、絶対に口には出せない。



 好きなんだ。
 心の中でさえ、修飾語は付けられなかった。



やっぱり都合よく誕生日のネタは思いつかず、
よりによってこれっぽっちも祝ってない話を書いてしまいました。
本当はもう一寸明るく爽やかなネタだと思っていたのに。