平生業務に於ける不可視的要素の考察






「暑苦しい。」
 時刻は丑三つ時に差し掛かった頃。
 春か秋か、判断の付かない海の上は、日の光を失えば直ぐに本来の姿を現す。


 が、
「暑苦しい。」
 溜息と共に、本日何回目かの苦情を吐き出した。
 しかし、帰って来たのは鼾交じりの寝息のみで、
「ああもう、何なのお前。」
 頭を抱えた。
 別に、動けないと言う訳でもないのだ。
 唯、ラウンジのテーブル、其の向こうに堂々と座って居るだけの話で、此方の身はあくまで自由だ。
 しかし、
「 」
 一体どう言う仕組みなのか、キッチンの中を動き回る分には何の問題も起きないのに、
 いざ此処を立ち去ろうとすると目の前の剣豪から「んがっ」とか「んごっ」とか、不満気な音が発せられる。
「…………」
 はああ。
 ああもう、数時間で一体何日分の幸せを逃がしてしまったのか。


 何がしたいとか何をして欲しいとか。
 何一つ聞いていない。
 言われたからって、じゃあ其れを実行するか、と問われれば、
 微妙だ。
 やるかどうかが、と言うよりも、
 実行する俺が。
 どうにも微妙だ。


「お前もさあ、」
 しゅっ、と音を立てて燐寸をする。
 ふっ、と一口目を憎き緑頭に吐きかけて、
「もう一寸素直に甘えろよ。」
 だって此れは一寸困る。
 此れじゃまるで被害者みたいで。


「煩えな。」
 うつ伏せになった所為で少しくぐもった声が返してきた。
「何だ、起きてたのか。」
「煙い。」
「良かったなあ。明日良い事あるんじゃねえか?」
 立ち上がりながら、オマケ、とばかりにもう一息吹きかける。
「んじゃ、俺寝るわ。酒に手ェ出すんじゃねえぞ。」
 其の言葉に、ぴくり、肩が動くのが見えた。
 前言撤回。……言ってねえけど。
「あーハイハイ、おっめでと。」
 相変わらず、此方を向かない頭部に一瞬、口付けた。


 畜生、此の甘ったれめ。



絶対間に合わないと思っていたのですが、何だかんだで間に合いました。良かった良かった。
今日も馬鹿ップルは一体どっちが攻めなのか分からない感じでのんびりやっています。
いや、煙草吸ってる方が受けですよ、念のため。
うちの剣豪はのっそりとした甘ったれ。