ヒカリと七つ葉





「おっめでとーッ、」



 船長の音頭で始まった宴は、結局、主賓が一番走り回って居ると言う、
 いつもの状況で終盤を迎えて居た。
 本人が一番性に合って居ると言うのだから、別に良いのだろう。
 けど。
(何だか祝った気がしないのよね。)
 一寸咎める気もするけれど、
(他の連中のとは、違うんだから。)
 祝われている本人が、多分一番分かって居ない。
(ムカツク。)
 そう言う所も、なんて、馬鹿みたいな事を思いながら。
 一つ溜め息を吐いて、壁時計に目を遣る。
 もう直ぐ、日付も変わる。
 船を動かせる時間が限られて居る以上、船乗りの朝と夜は早い。
 そろそろ、お開きだろうか、
 そう思って椅子を立つ。
 キッチンのドアに手を掛けて、其の側に貼っておいたカレンダーに気付いた。



「死屍累々って感じね。」
 甲板に出るなり目に入る空瓶と皿の山、そしてゾロとロビンを除いた、所謂年少組の屍。
 思わず口をついて出た台詞に、其の隙間を縫って皿の回収をしていたサンジが困った様に笑った。
「ロビンは、部屋に戻ったの、」
「うん。もう寝るからって、先刻。」
 相変わらずのマイペースだ。
 まあ、そうでもなければ此の船のクルーなんて、はっきり言ってやってられない。
「それでそろそろ開こうかって事になって、ゾロは見張り台。他はもう使えないから、見ての通りね。」
 こつん、とサンジの靴がウソップを小突いた。
「ナミさんもそろそろ寝たら、」
 言いながら、形も大きさもまちまちの食器を器用に重ねる。
「サンジ君は、」
「皿と瓶だけ片付けたら俺も寝るよ。」
「……そう。」
 サンジの言葉は少しだけ意外だった。
 認めたくは無いけど、てっきり、
(……ああ、そうか。)
 余計に悔しくなって、こっそり唇を噛んだ。
 誕生日の夜は、今だけでは無い。
「ねえ、サンジ君。良かったら一杯だけ、飲み直さない、」
 何でも無い様に聞こえているようにと願いながら、サンジに言う。
 サンジは一瞬、目を大きく開いて、
「ええ、喜んで。」
 女から見ても完璧な笑顔で返した。



 変な所で聡い人だから、多分全部気付いて居る。
 其れなのに、当たり前の様にこうして居るのが、彼なりの優しさなのだろう。
 残酷かも知れないけれど、其れでも。
「結局全部サンジ君が働いちゃって誕生日も有ったものじゃ無かったから。」
 言い訳みたいに、部屋から持ち出したワインを開ける。
 村を出る時に、家から黙って持って来た、フルーツワイン。
 今でも時々泣きそうになる、あの人の味だ。
「そんなに何本も持って来た訳じゃないから、結構貴重なのよ。感謝なさい。」
 こんな風にしか言えない自分は、決して嫌いではない。
 素直じゃない事など百も承知だと言う様に、サンジは笑って居た。
「有り難う。」
 変に畏まる訳でも無く、あくまで自然体に。
 こう言う姿を見せる事が。サンジの仲間意識なのだと最近気付いた。
 とぷん、
 グラスに注ぎ終えた瓶の残りが揺れて、深海の様な音を立てる。
「乾杯、」
 サンジがグラスを傾ける。
「何に、」
「そうだな、じゃあ、シンプルに、君の瞳に、とか、」
「何処がシンプルなのよ、其れ。」
「駄目かな、」
「駄目。其れに、其れじゃあ何にも祝って無いじゃない。何の為に開けたと思って居るのよ、」
 言われて、サンジが苦笑する。
 余り見ない表情に、少し嬉しさを覚えた。
(安くなったものね、私も。)
 こんな時をもたらしてくれたのが、此の船で有る事を誇りに思う。
「ううん、何か、慣れなくてこそばゆいんだよな、人に祝って貰うのなんて。」
 まあ、あのレストランじゃあ無理もない。
 何だかんだ言って愛されて居る様にも見えたけれど、其れを行動に現せる様な素直な人間はきっと彼処には居ない。
「言うと思った。」
 だから、ギリギリだったけど、気付いて良かった。
 そんな事、意識したのなんてずっと昔だったから。
「プレゼント代わりに、言い訳をあげる。」
 サンジが首を傾げた。
「時計、後三十秒よ。」
 秒針を目で追う。ちらりと盗み見たサンジも、同じ様に針を見て居た。
「三、二、一。」
 重なったグラスが、透明な音を響かせる。
 そして、漸く合点がいったとサンジが笑った。
「おめでとう、ナミさん。」
「ふふ、有り難う。」
 そして、二人で一気に杯を空けた。
 其程強い酒ではなかったが、少しだけ、頭がくらり、とした。



「今日も、宴会かな、」
「遠慮するわ。二日続けてじゃ肌が荒れるもの。」



 三月三日、
 そんなもの、と思って来た今日が、此程暖かく感じるなんて夢にも思わなかった。



去年はゾロサンだったので今年はナミさんで誕生日祝い。
来週中に何か思いついたら剣豪にも祝わせます。