02.秘めごと







 愛しのレディー達と、おまけの野郎共に午後のティータイムを提供して、ラウンジにて一人、少し余った紅茶だけ同伴に預かって居た。
 とろり、とグラスの中で踊る氷と、其れと一緒に泳ぐオレンジ。
 夏島が近い海域の、目が眩む程に濃い青の空に、きっと此れは似合って居る。
 開かなくなって全て思い出せる、手製のレシピを捲りながら、今夜のディナーについて暫し思いを馳せる。
 一枚だけ、ドアを隔てた甲板の向こうで、愛すべきクルー達の声が聞こえる。
 グラスを片手に少しだけ、笑う。
 海賊船には少々似つかわしくない、こんなのは所詮嵐の前の静けさでしかないのが分かって居るからこその、静寂。


 ラウンジのドアが開いて、其方を見上げる。
 お代わり、のコールを背負って、憮然とした顔の剣士が其処に居る。
 今日は此の男がメッセンジャーか、と苦笑しながら立ち上がり、冷蔵庫を開ける。
 連中が一皿で満足しないのなんて、二日此の船に居れば当たり前の事になる。
 (二皿にいちいち分けて出すのだって、一皿に纏めた所で必ずお代わりが来るのを知って居るからだ。)
 紅茶とは対象的にビターなケーキを一皿だけ、テーブルの上に置く。
 今迄口をつけて居たグラスを横に添えて、お駄賃、と剣士に告げる。
 お互い、何ともしがたい関係な訳だから、傍目には分からない、剣士のほんの少しだけ染まった頬なんかがくすぐったい。
 残りのケーキを盆に積んで、キッチンを出ようと二歩、三歩。


 味が違う、剣士の声に振り返る。
 其れに気付いたのが、俺の教育の成せる業か、其れとも愛なんてものの成せる業か。
 まあ、どちらにしろ気分は悪くない。
 甲板に持って行ったのは、アールグレイとグラニュー糖、オレンジジュースにレモンジュースにコアントローが少しずつ。
 俺が飲んで居たのは、アールグレイにオレンジジュースと蜂蜜を入れただけ。
 飲めば其の差は歴然として居るが、此の男が其れに気付いたと言う事実は、俺にとっては少々、大きい。
 何でだ、と、種明かしをした俺に、剣士が眉を潜める。
 別に、何か理由がある訳じゃない。
 一般に広く飲まれて居る方を持って行っただけ。
 酒飲みの多い此の船では、少量でもリキュールの香りの方が好まれる気がしたからだ。
 好きじゃねえのか、あっち。
 其の問いには、剣士は否と答えた。
 困った、此の男の思考が分からないのは平生の事とは言え、折角此れ程に良い気分を害するのは勿体無い。
 途方に暮れた俺を余所に、剣士がグラスの中身を飲み干す。
 まあ、此れで、良いけどな。
 剣士の言葉に、漸く答えが分かって、俺は笑い出した。
 全く。子供か、お前。


 盆を傾けない様に少しだけ意識して、身を屈める。
 先刻迄俺が座って居た席に居る、剣士に軽く口付ける。
 御褒美。
 笑って、ぺろ、と舐めた俺の唇には、
 ほんの少しだけ、コアントローと蜂蜜の味。
 二種類の紅茶の名前は王宮の虎。
 まるで誰かを思わせるようで、少しだけ甘い。


 一層強くなったお代わりコールに答えるべく、俺はキッチンのドアを閉じた。





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