恋愛以上恋人未満

「おはよう、ナミさん。」
いつもより少しだけ早起きして、キッチンに向かった。
「おはよう。」
一瞬だけ、呆気に取られた。
「……あんた、伊達じゃ無かったの、あれ」
にこりと笑いかける、其の目にかけられた黒縁の眼鏡。
アラバスタで見たのと似た様なデザインの。
「ああ、うん。あの時は変装用に見つけた奴だから唯の伊達なんだけど、此れは違うよ、」
「ふうん、そう言えば結構かけ慣れてる様な気もしたのよね。」
「滅多にしないけどね。一寸遠視なだけだから。」
此れ、と示す様に、広げた新聞を持ち上げる。
「其れ、今日の、」
「ううん、昨日の。先刻来たからお金払っておいたよ。」
「有り難う。……ったく信じらんないわ。きっちり一日遅れなんて、何考えているのよ。」
「……まあ、グランドライン迄持って来てくれるだけでも……」
其れは、確かに其の通りだけど。
「何か目ぼしい事書いてた、」
「特に目新しい事は無いけど、……ああ、ごめん、先に読んじゃって、」
「お金払っておいてくれたんでしょう、良いわよ、其れ位。」
がたん、サンジの正面の椅子に腰掛ける。
瞬間、サンジが新聞に視線を落とすのが見えた。
少し、いつもと印象が違って見えた。
其れだけなのに。
「ねえ其れ、珈琲、」
誤魔化す様に、テーブルの上の見慣れないグラスを指差した。
グラスの上に、アルミの皿ともう一つアルミのカップが乗っかっている。
中の液体の色と漂う匂いは珈琲のもので間違い無いと思うのだけれど。
「うん、ナミさんも飲む、」
「お願い。」
読みかけの新聞をテーブルに置いて、サンジが立ち上がる。
大した間も置かずに、テーブルに出されたのはコンデンスミルクの入ったグラス。
其の上に、サンジのものと同じアルミのカップ。
「抽出に少し掛かるから、此のまま待ってて、」
ぽたぽた、カップと皿に開いた穴から珈琲の雫が落ちてくる。
そして、再び椅子に掛ける。
ふと目を遣った時計は、朝食の時間が近い事を教えた。
どうしようか、
少しだけ躊躇して。
「ねえ、サンジ君。朝御飯の前に読んじゃってくれる、其れ。」
「ああ、良いよ、別にナミさんが読むんなら……」
「良いから。早く。」
「……はい。」
押し切られて、其れでも此方を気にしながら、少し伏せた目が活字を追う。
「サンジ君、仮性遠視って、突然近視になったりするから気をつけなさいよ、」
「……流石ナミさん……。」
いつもの芝居がかった台詞とは違う、心底実感の篭った調子に驚く。
「……何よ、」
「……あのクソ野郎共。遠視だって言ったら何て言ったと思います、」
「まあ、遠視の説明に一時間は掛かったでしょうね。」
多分、目が悪いと言ったら近視しか思いつかないだろうし、近くが見えないと言う事をそう簡単に理解出来るとは思えない。
其れより。
「何だ、私以外皆知ってたの。」
「男部屋で何か読むとなると此処より薄暗いから……。其れで、こっちが必死になって教えてやったら、」
はあ、深い溜息を一つ。
「要するに老眼だろ。」
忌々しげに呟く。
口調からして、ゾロ辺りだろう。
「あの野郎……」
確かに、其れは何だかあんまりだ。
言われた通りに新聞紙を見る目が、軽く潤んでいる様な気がした。
「あーはいはい、後で私がボコっといてあげるから。」
くすくすと笑いながら、其れを眺める。
視線の動きを見る限り、読む速度はかなり、速い。
其れで、感情移入甚だしい会話をこなすのだから、矢張り器用な男だ。
元々男性には向いていないとかそう言う話を何処かで見た様な気がする。
「イエ、ナミさんの御手は煩わせませんよ。」
「そう、」
「でも、有り難うございます。」
にこっと、満面の笑みで此方を見る。
敵わないなあ、そう思った。
多分、ルフィとウソップ、其れとチョッパー。
聞こえた足音に、時間切れを知った。
ほんの少しだけ。
たった三十分の早起き。
けれど、
見慣れないサンジの姿と、
まだ口を付けていない珈琲。
「未だ、一文足りないわ。」
「へ、」
目を丸くする其のの口元に、唇を寄せた。
「ねえ、私も持ってるのよ、眼鏡。近眼用の。」
「へえ、似合いそうだ。」
「有り難う、其のうち、掛けてみるわ。」
二人して少しだけ頬を染めて、笑う。
ああ、全く、もう。
| と。 此方も、アジアンスイーツの本がよかったぞ記念。 もう、ゾロと別れた方が良いんじゃねえかとすら…… あわわ。 眼鏡して新聞読んでいるサンジさん。 いつかイラストサイトさんでカウンター踏んでリクしてみたいものの一つ。 三文の徳の意味を思い切り間違えている事は分かっていますので御心配なく。 知っていて書きました。 いつもの事ながら萌え小説。 |