後方二十四時流れ落ちる偏西風





 暗い夜は好きじゃない。
 特に、こんな新月は。

 自分の居場所すら分からなくなる様な闇に、悔やみきれない日々を思い出さずにはいられないから。

(なんてな、)
(子供じゃあるまいし。)

 明日の仕込みを片付けて、風に当たろうと甲板に出た。

(大体、らしくねえっての。)

 煙草を取り出して、口にくわえる。
 燐寸で火を付けて、一息、深く飲んだ。

 明け方、あんな夢を見た所為だ。

 其れ以上、煙草を吸う気にはなれなくて、火が付いたままの其れを海に放り投げた。
「 」
 其処で初めて、すぐ近くに人影がある事に気付いた。
「何だ、珍しいな、手前が起きてるなんてよ、」
「あ――― 、まあな、」
 少々、ぞんざいかも知れない此方の言葉に、ゾロは溜め息を吐いた。
「どうかしたか、」
「いや、なんつーか、目が冴えて。」
 少なくとも、此の男に関しては絶対にあり得ない言葉だろう。
 そう思ったから、正直に、笑った。
「嵐に備えておいた方が良いかもな。」
「うるせえ、」

 其のまま、何となく会話が途切れて、沈黙が甲板を包む。
「 」
 ふと、振動を感じて、ゾロの方を見た。
「何、」
 どういう訳かは知らないが、ゾロが、此方の髪の毛を一房摘んでいた。
「あー、何となく。」
「何だそりゃ。分かるように言えよ、気持ち悪いな、」
「…、」
 すると、ゾロは考える様に言葉を止めて、そして、静かに言った。
「先刻思ったんだがよ、」
「ん、」
「夜だと、目印みてえだな、お前の髪。」
「はあ、」
「道標とか、灯台みてえな。新月だと、余計に目立つからな。」
「…、」
 何でもない事の様に言われた台詞に、返す言葉を失った。
「迷ってんじゃねえっつってるみてえだ。」
「…ふーん、」
「闇に溶けない色だからな。言われた事無いか、」
「ねえよ、」

(つーかそりゃ、俺に言う事じゃ無いだろ。)
(下手すりゃ、口説き文句だぜ?)

 心の中で突っ込みながら、其れでも、
「…でもまあ、悪い気はしねえや、有り難うな、」
 自然に、笑みが浮かんだ。
 まさか、よりによって此の男に教えられるとは思っていなかった。
「ん、」
 ふと、ゾロが此方をじっと見ているのに気付いた。
「何だよ、さっきから。」
「別に。」
 迷惑そうに眉を顰めたにも関わらず、ゾロはふ、と笑って返した。
 何となく、居心地が悪い感じがして、また、沈黙が訪れた。
 会話のきっかけを求めて、横目にゾロを見る。
 其の横顔を見て、何かが、すとん、と落ちるのを感じた。

「…そっか、」
「何だ、」
「んや、別に。冷えてきたな、」

 暗い夜は好きじゃない。
 新月なら、尚更。

「飲もうぜ、キッチンかどっかで。」

 其れでも、
 こんな夜なら悪くないかも知れない。



何だか、私のゾロサン像って時期によってムラが有るなあとしみじみ。
今じゃ絶対書けませんよ、こんな不安定なサンジ。