三月二日  即興






 午前九時

 カツ、
 小気味よい音を立て、板の上をチョークが走る。
 カウンターの椅子に腰掛け、組んだ足と左手で支えた黒板に、迷う事無く文字を書き綴った。

 Life

 am11:00-pm5:00

 本日のランチ
 A 鳥のパスタ
 B オリジナルカレー

 本日のデザート
 ロールケーキ(チョコレート、プレーン)

 珈琲
 紅茶


 本日、五時以降は貸し切りとさせて頂きます。
 店長、sanji



 午前十一時

 「改めて客呼ぶ気が感じられねえよな。」
 「うるせえ黙れ穀潰し。とっとと看板出して来い。」



 午後三時

 「お早う、店長さん、」
 「ロビンちゃん。お早う、」
 「紅茶、ミルク入れて頂戴、」
 「かしこまりました。」



 午後五時

 がたん、
 少々乱暴な手つきで、黒板を硝子のドアに傾け、其処に木と鉄板の立て看板を置く。

 jazz bar  Life

 pm5:00-

 でかでかと貼られた紙には、

 本日貸し切り
 店長 robin

 「何も貸し切りにしなくたって良いのに、」
 「折角のお祝い事なんだから、構わないわよ。私の時だってそうだったでしょう、」
 「有り難うね、店長。」
 「いーえ、」



 午後六時

 「えー、本日は皆様、」
 「頂きますッ、」
 「無視すんなあッ、」
 「うーるさいわよウソップ。其れとルフィ、未だ食べちゃ駄目。」
 「えー、」
 「えーじゃないッ、」

 「其れでは、麗しきロビンちゃんと美しきナミさんと、其れと天才ピアニスト俺の誕生日、以上を祝して、」


 店内奥、グランドピアノの上に置かれたアルミの灰皿がきらり、ライトを反射する。


 「即興ッ、」


 言うが早いか、
 鍵盤の上を骨張った細い指が踊った。



 午前二時

 「片付けはやっておくから、もう帰って大丈夫よ、」
 「ロビンちゃんこそ、こう言う時の為に、わざわざ穀潰し雇って居るんだから。」
 「……おい、」
 「冗談だ、馬鹿。……いや、半分は本気か。まあ良いや、お前も座れ。」
 「あ、ついでに一寸グラス三つ持って来てくれる、」
 「……」
 「何むくれてんだよ、滅茶苦茶良い酒だぞ。流石だよなー、大物は。」
 「こんな時位しか役に立たないけれどね、」
 「確かに。」
 「おい、此で良いか、」
 「ん、良いから座れ。」



 「其れじゃあ、改めて。」



 かろん、
 三つのグラスが触れ、氷が音を立てた。