未来予報機構

少し肌寒い風が吹いた。
暖かい日差しと、キッチンの熱気に火照った表皮を撫で、其の向こう、蜜柑の木を揺らし、何処かに消えた。
階段の一番上から見下ろした所に、平生通りの姿を見つけて、仕方無えなあ、なんて、口元が緩んだ。
「お、朝か。」
「お前の国では昼飯食ったら朝になんのか、」
何とも気持ち良さそうに伸びをしながら、欠伸交じりに平生の台詞を吐く。
もしかしたら此れはジョークのつもりなのかも知れない、と思ったけれど、すぐに忘れる事にした。
何だか嫌だ、挨拶にジョークを交える剣豪なんて。
「お前、お八つ食い損ねてんぞ。」
タバコの煙を吐きながらそう言うと、ウィットに富んだ(仮)剣豪は眉の間の皮膚を寄せて、
「残って無えのか、」
嫌だよなあ、こんな、ふてぶてしい子供。
気持ちは分かるけれど(何せ俺が作ったんだから)、あんまり表に出さないでくれ、って言うのは、我儘なんだろうか。
「いや、取っておいてはあるけどよ、何せとっておいただけだからよお、ルフィに狙われたらひとたまりも無えぞ。」
「…………食う。」
「おン、」
話題を振った時点で此の答えは予測して居たから、自分で行けよ、と其の背中を蹴飛ばした。
予想以上に見事に付いた足跡に満足して、踵を返す。
結局、レディーであろうと無かろうと、甘いのだ、自分は。
待ってろ、と言う言葉に、おお、と頷くだけで其れを気にもしないこいつも。
大概だとは思うけれど。
腹が朽ちたら寝る。
消化を考えたら此れが一番良いのだろうが、若人としてどうなんだろう。
食って寝て鍛えるって、其れ確か、
「何だっけ、」
寝転がるゾロの横にしゃがんで、膝に頬杖を付く。
咥えたタバコの煙が流れるままに口に出すと、ゾロは此方側の目だけ開けた。
横着者め。
「何がだよ、」
「んー、何だっけ、話に聞いただけだからな。」
「あーそう。」
再び目が閉じて、ついでに背中まで向けられる。
あのさあ、いつもの事っちゃ其の通りなんだけど、其れってどうなの。
仮にも俺って、
「……何だろ。」
何でもないのかも知れない。
だったらまあ、
「良いのか、」
良くない気がする。
気ままに吹く風が、紫煙が描く一本の線を乱す。
其れはついでとばかりに、視界を遮る前髪と、ゾロの髪を揺らした。
すげえ、草原だ。
言ったら怒るだろうか。
怒るだろうな。
「なあ、ゾロ。」
「何だ、」
「あ、起きてたよ。」
「……起こすな。」
うんざりとした声から察するに、機嫌はまあ、上々、だろうか。
「なあゾロ、手。」
右手をゾロの背中に向けて、ひらひらと差し出す。
ごろり、先刻の仰向けに戻る。
今度はちゃんと両目が開いて居た。
「右手でも左手でも良いから、手。」
急かす様に、ひらひら、動きを少し早める。
ゾロは一度深くため息を吐いて、ぱしん、此方の手を払う様に左手を動かして、其のまま重みを全部預けて来た。
すぐに寝るかな、
此方の予想は裏切られて、ゾロの目はぼんやりと、空に向いて居た。
少し肌寒い風が吹いた。
火照った表皮はとうに冷めていたし、今夜は冷えるな、と感じたのも事実だ。
だが、其の温度は何処迄も心地好く、時間を攫った。
ゾロも、此方の奇行にはまるで何も言わず、
何なんだろ、俺って。
そんな自問が頭に浮かんだ。
風が吹いた。
「知ーらね。」
一緒にかき消すつもりだった台詞に、ゾロが少しだけ笑った事が、手のひらを通して伝わった。
| 食って寝て鍛えるのは力士。(爆) 難産の末、昨年のゾロ誕と何となく雰囲気を合わせてみました。 サンジさんが送るゾロ観察日記。 連中が死ぬ時、思い出すのはこう言うどうでも良いひとコマなのかも知れないと、実に縁起の悪い事を考えながら書きました。 何はともあれ、ハピバスデーサンジ!!! |