風は冴え、月は程良く。
 ならば宴に理由は要らず。


 何処にでもある九尺二間の裏長屋、
 開け放った窓の向こうに光柔らかな十六夜月、
 お互い壁を背に、向かい合った形で腰を下ろした。

 くい、とサンジが盃を空ける。
 唇の形が整って見える、と女共が使いたがるような遠州型の盃、
 其れを、此の男が好むから質が悪い。



 互いに、口は聞かない。
 折角の虫の音、詰まらぬ戯言で掻き消すのは無粋、
 と言うのはサンジの言だ。


 実際は元々饒舌でもない此方に一人で話しかけるのも空しいだけ、
 そんな物だろう。



「ゾロ、」
 サンジが此方を見る。
「ゾロ、」
「……何だ、」
 ことり、と真ん中に置いた盆に盃を乗せる。
「寒ィんだよ、口開くと、」
「だったら黙ってりゃ良いだろうが、」
 言葉にして、確かに気付く。
 秋の夜の風が、酒に濡れた口にひゅうと吹き込む。



「ゾロ、」
「だから、何だ、」
「寒ィっつってんだよ。」



 口元が冷えるのも構わずに溜め息を吐く。
 生意気小癪な口ならば塞ぐが道理、





「  」
 どのみち冷える唇ならば、と小さく奴の名を呼んだ。



物言わば唇寒し秋の風