ニビイロハイビスカス

不毛だって言うのは自分でだって分かって居るから、
此の侭時が止まれば良いなんて陳腐な事を、
本気で願ってしまう時だって在る。
梅雨入りの寸前位の涼やかな陽気。
室内に居るのが惜しくさえなる爽やかな気候に多忙なコックも耐え切れなくなったのだろうか、
後部甲板にシーツの山をはためかせて、自分はキッチンの窓の下に寄りかかる様にして、サンジが眠って居た。
其れが、悔しい位に心地よさそうに見えたから、
出来るだけ起こさないようにと隣に腰掛けた。
気温は紛れも無く夏の其れなのに、吹く風は決して暑さを感じさせない。
此れが一年中続けばどんなにか、と故郷を思い出す。
ざわ、
蜜柑の葉が音を立てる。
其れに混じって、隣からは微かな寝息が聞こえる。
柄にも無く胸が高鳴った。
キッチンを挟んだ向こうでは、他のクルー達のはしゃいだ声がする。
其れなのに、
まるで誰も居ない様に感じた。
吹き付けた風にサンジの前髪が揺れる。
普段は見えない左目に、
目線が離れなくなった。
「ねえ、サンジ君、」
ぽつり、呟く。
小さ過ぎた其の声は、結局誰にも届かなかった。
壁から背を離して斜め前から、サンジに向かって身を乗り出す。
「サンジ君。」
頬に手を伸ばす。
「……ナミさん、」
半分寝惚けた侭、サンジが怪訝そうに名を呼んだ。
「どうかした、」
「何でもないわ、ねえ、サンジ君。」
うん、サンジが聞き返す。
自分は今、どんな表情をして居るのだろう。
「見えてる方と、隠れてる方、どっちかで良いから私に頂戴。」
サンジの両目を覗き込む。
此の距離では髪の毛で隠れたって何の意味も無い。
「其れは、無理だよ。ナミさん。」
困った様に、サンジが眉を顰める。
そして同じ様に片腕を伸ばして来た。
「……分かって居るわ、御免ね。」
サンジの右目に口付ける。
反射で下ろされた瞼がぴくり、怯える様に痙攣した。
「御免ね。」
其れでもきっと、
時が止まって一番苦しむのは私自身なのだろう。
| 早く夏にならないかなあ、等と思いながら。 そして、友人の阿呆なリクエストに萌えながら。 どうにもこうにも受けサンジ。 |