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止まない風
西から東へ、空をゆっくり歩いていく白い雲。
遠くで幸せそうに鳴り響く、教会の鐘。
後ろには一面のラベンダー畑が穏やかな香りを漂わせている。
のんびり流れる優雅な時間。
そしてワインを片手に丸太の上、静かに佇むイイ男。
「絵になる光景だな〜。」
おれは空に口説くように囁いて、ワインを一口含ませた。
下の上で転がせば、広がる芳醇な味わい。
イイ男のおれに似合う上質なワインだな、こりゃ。
カサカサカサ・・・
急にラベンダーの高い葉が不規則に音を立てた。
ちらりと見ると、怪我をしてボロボロなキツネが一匹、回りをこそこそしてるようだった。
狙いはたぶん、おれが持ってきたこの肉。
こいつ、おれが気づいてないと思ってんだろうな。
おかしくて声を殺して笑った。
それにしてもこいつ、さっさと取って逃げればいいのに。
さっきから様子を伺うだけで一向に行動に移さない。
おれが見てるからか?
別にかまわねぇのになー。
度胸のねぇやつ。
目を瞑って、向こう側を向いてやった。
ったく。このおれ様に気を使わせやがって。
カタッ・・・
しばらくして皿が少し動く音がした。
やっとやる気になったらしい。
そしてまたカサカサと葉が揺れる音。
どうやらキツネは、人間からまんまと食べ物を盗み出すことに成功したらしい。
「いっぱい食って、早く怪我治せよ。」
でもあのキツネはきっとおれの気遣いなんて知らない。
・・・まぁ、それも悪くねぇ。
ふと、風を感じた。
さっきまではまるで意識もしなかったのに。
今はそれだけに意識を集中する。
頬を撫でて。
瞼にキスして。
髪を梳いて。
どこか名残惜しそうに風が離れていく。
力強いのに、温かくてどこか優しい。
なんかあいつみてぇ。
気がつけば、いつも当たり前のようにそばにいる。
照れくさくて絶対言わないけど、実はそれがとても心地いい。
オレンジ色だった瞼の裏が、急に暗くなる。
「?」
影って来たのかな?
そう思った瞬間、唇に温かいものが触れた。
「!!??」
おれが驚いて目を開ける前に、それはゆっくり離れて行った。
目の前にはゾロが立っていた。
「なんだ。起きてたのか。」
そんな何でもないようなことを言い放ってる。
いくらゾロとは『恋人』の仲でも、実はおれはこう言うのに慣れてない。
「なんだじゃねぇだろ!!いきなり何しやがる!!」
「寝てると思ったからよ。」
「おれが寝てればキスするのか、てめぇは!!」
おれは立ち上がって、荒々しくゾロの胸倉を掴んだ。
でも、妙に顔が熱い。
たぶん今、顔が真っ赤になってるんだろう。
こんなんで凄んだところでなんの迫力もねぇだろうな。
「クソ・・・。」
ゾロから目を逸らし、ぶっきらぼうにシャツを放した。
もう一度座り直し、グラスに残っていたワインを一気に飲み干す。
トプトプトプ・・・
ボトルを傾け、またグラスに赤いワインを注いだ。
ゾロがおれの目の前に手を出した。
「俺にもよこせ。」
黙ってビンを差し出してやる。
ゾロはそれを受け取って、俺の横に腰を降ろした。
「ひとりで何やってたんだ?」
半分はあったはずのに、ゾロは一気に飲み干してしまった。
ったく!上等なワインなんだからもっと味わえよ。
「・・・イイ男に貢いでたんだよ。」
まぁ、キツネなんだけどな。
グラスのワインを一口ちびりと飲んだ。
顔がまだ火照ってる。
これはアルコールのせいなんだと自分に言い聞かせた。
ちらっと目だけでゾロを見た。
・・・あれ?怒ってる。
もしかして『イイ男に貢いでた』って、本気でそのまま信じたのか?
バカじゃねぇの?
嘲るような、愛しいような、嬉しいような。
そんな複雑な気持ちで軽く笑った。
ちょっと優位に立った気分。
形勢逆転?
「何笑ってんだよ。」
「いーや。別に?」
「・・・・・・」
トン・・・
急にゾロがおれの肩を押した。
座っていた丸太から、下のラベンダー畑にスローモーションのように落っこちた。
手からグラスが離れ、赤い液体が花となって散っていく。
おれは強かに背中を打ってグッと息が詰まった。
「いってぇ・・・っ!!この・・・!!!」
ゾロはおれが文句を言う前に上に覆い被さり、手首を掴んで拘束した。
ラベンダーの強い香りにむせかえそうになった。
ゾロが上から凶悪な目付きで見下してくる。
悔しいけど、おれでさえ背中に冷たいものを感じるほどに。
「イイ男って、誰だよ。」
まるで獣が低く唸るみてぇだ。
「・・・・・・。」
「言えよ。」
こいつはいつもバカで真っ直ぐだから、たまに冗談が通じないとこがある。
そんなはずねぇじゃねぇか。
「バーカ。冗談だ。」
「・・・・・・笑えねぇよ。」
眉間の皺はまだ取れてないけど、ゾロはどこか安心したような顔をした。
こいつはけっこう、分かりやすい。
そんな微笑ましい気持ちでいたら、またいきなりゾロに唇を塞がれた。
でも今度は固く目を瞑ってそれを許してやる。
重なり合うとすぐ、ゾロの熱い舌が入ってきた。
おれの口の中をかき回し、舌を絡め取る。
「んん・・・っ!」
クソ。息苦しいのに、腰がうずく。
いつもこの瞬間、何だか妙に悔しくなる。
誰に?
やたらテクニシャンで、しかも有無を言わせぬ雰囲気にしてしまうゾロに。
いや、違うか。
それにすぐ流されて、こいつが喜べば自分も嬉しくなるような甘い自分に、だな。
ゾロの舌は好き勝手暴れ回ると、ゆっくりと出て行った。
おれとゾロの口をキラキラと反射して銀色の糸が結んだ。
「嘘ついたからな。お仕置きだ。」
「そ、外でか!?」
「文句あんのか?」
「・・・お手柔らかに。」
まるでこいつは風のよう。
どこか優しく。
触れれば温かく。
そばにいれば心地よく。
かと思えばとても激しく。
溶けそうに熱く。
おれの全てを奪うようにわがままで。
おれに色々な表情をぶつけながら、一緒に生きていく。
まぁ、それも悪くねぇか。
まるでこいつは風のよう。
でも決して、止まない風。
END
伶様に1111hitのリクエストをして頂きました!!
初リクエストなので、舞い上がりながら書いちゃいましたv
リクは『266話の扉絵の続き』でしたv
後ろの畑っぽいの、実は私には麦畑に見えました。(笑)
でもそのまま書いたら
タイトルが『愛の花咲く麦畑』になりそうだったので、(嗚呼、これでも私は未成年)
綺麗にラベンダー畑にしてみました(笑)。
伶様へv
リクエストありがとうございました!
クリアしていますでしょうか?(おそるおそる)
これからも宜しくお願い致します!
初見で1111ヒットという奇跡を起こし頂いたssですv
はーうあー至福vv
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