流線形

其れ迄のごたごたが嘘の様に、騒がしく作業は続いていた。
ルフィがモックタウンに向かってから、既に一時間。
「何サボってんだ、」
少し離れた所にサンジの姿を見つけた。
「うるせえ、体力馬鹿と一緒にすんな。休憩してんだよ。」
不機嫌そうに眉を顰め、煙を吐く。
右手の煙草は未だ半分以上残っている。
近付くと、足元に二、三個の吸い殻が転がっていた。
(サボりじゃねえか。)
思いはするが、口に出すと長くなるので止めておく。
「ルフィの野郎、遅えな、」
サンジが呟く。
何となく、違和感を覚えた。
「未だ大して経ってねえだろ。」
近所に使いに行った訳でもあるまいし。
「分かってっけど。」
言いながら、溜め息を吐く。
其の様子に、やはり、違和感は消えなかった。
そう言えば、今に始まった違和感では無い様な気がする。
いつからだろうか。
覚えている限りの記憶を洗い出す。
ビビが居なくなってからだろうか、
違う気がする。
何と言うか、種類が違う。
其れから、あの女が乗り込んできて、
船が降ってきて。
(其れからだ。)
では、原因はあの船だろうか。
良く分からない。
原因らしき物は見えても、理由が分からない。
「……」
余計な事を気にしている。
あんな事があったからだ。
酒場で吐かれた全ての言葉を、
下らねえと思いながら、
苛立っている自分が居た。
『ありもしねえ幻想』に『振り回されて』いる『馬鹿』を思い出した所為だ。
馬鹿馬鹿しい。
分かってはいるけれど。
「お前、何かヘコんでねえか、」
逆に問いかけられて我に返った。
其れを、言われてどうする。
聞きたいのは此方の方だ。
「お前もだろ。」
言うと、サンジは少し意外そうな顔をする。
「船が降ってきてからだ。」
「うわ、何お前でも分かる位ヘコんでたか、俺。」
「ヘコんでるだろ。何があった、」
「……」
ふー、とやたら長く煙を吐き出す。
煙草を落として、足でもみ消す。
「下らねえって言うなよ。」
「内容によるな。」
此で、ナミがどうしたでは報われない。
「船の中でな、写真を見つけたんだよ。」
「写真、」
「おお。すげえ美人の。」
僅かに、鼻の下が伸びていた。
「……下らねえ…………」
「おいおいおいおい一寸待て、未だ終わってねえ。」
つーか下らなくねえ、と此方を指差した。
「其れで、」
続きを促すと、サンジは再び、煙草に火を付けた。
「なのにさー、何処の誰か知らねえけど、銛が刺さってんだぜ、酷えだろ。」
「…………くっだらねえ……………」
「其処、力強く後悔しない。」
「其れでヘコんでんのか、馬鹿か、お前。」
「酷くねえか、すげえ美人なんだぞ。でも多分人妻だなー惜しいよなー。」
「お前、二百年も前の女まで範疇に入れてんのか、」
「二百八年前、だ。ロビンちゃんのお言葉は正しく覚えろ。」
何だか、本気で馬鹿馬鹿しくなってきた。
修理に戻っては駄目だろうか。
「奥さんなんだろうなー。子供は思うに一男二女でなー。いいなー、人妻。」
阿呆だ。紛れもなく。
「どっかの港町で帰りもしねえ旦那を待ち続けてんだ。切ねえだろ。」
「其の前に何で其処まで仮定してんだ。」
「いや間違い無え。」
「根拠無えだろ。」
……戻っちゃ駄目でしょうか、
「其れで、お前は何でヘコんでんだ、」
「気にすんな、もうどうでも良い事だ。」
「ふーん、」
元々、気にする必要など無かったのだ。
多分。
誰に何を言われようと、気にするような奴じゃない。
『夢追い』の『馬鹿』には、過去さえ有れば其れで良い。
其の先、など後からついてくる。
「次は空か、」
「おお。」
空が、白み始めていた。
| 此の島では色々ありましたが。 サンジさんがあの場にいたらどうなっていたのでしょうか、 幾ら考えても、思いつきません。 |