砂兵





「風、止まないな。」
 
 砂混じりの強風にあおられた髪を押さえて、サンジが呟く。
 明かりがあるとは言え、やはり夜の渡り廊下は暗く、表情までは読めない。

「雨の次は風かよ、…逆よりは良いけど。」

 他愛ない会話に、生きているのだと実感する。
 アルバーナを包んでいた戦の匂いは、昨日の雨に流され殆どが消えていた。
 動く度に軋む身体だけが、其れを覚えている。
 サンジが腕を組む様に手摺りに両肘を乗せた。
 夜着の薄い布地がばさばさと音を立てる。

「霊風って言うんだと。」

 返事を返さぬ此方を気にする様子もなく、言葉を続ける。

「強い風の日は、其の風の中を魂が飛ぶらしい。昔、誰かに聞いた。」

 雲が動いて、現れた月がサンジを照らす。
 軽く握った右手の指の間に、何かを挟んでいるのが見えた。
 煙草だろうと思っていた其れは、小さな、白い花だった。

「そりゃあ、止まないよな。」

 ゆっくりと右腕を動かし、爪の大きさ程の花弁に唇を触れさせる。
 其のまま、外に向かって腕を動かして、指を放す。
 小さな花は、重力に従う事無く、風に舞う。
 其の行き先を無言で見つめた。
 其れは、鎮魂の儀式の様に見えた。
 とうに見えなくなった花を目で追うサンジに近付く。
 顔も知らぬ兵士達を、夢を見る様な顔で想っている。
 自分には、到底理解出来ない感情だ。

「明日になりゃあ、止むだろ。」

「かもな、」

 静かに微笑む彼の頬に触れ、口付けた。



霊風と言う考え方は少なくとも日本では良くあるものだそうです。
花のアレは、風の強い日に偶々思いついたものを。