世界に花





 ナミさんの蜜柑の木が花をつけた。
 女性陣はもとより、
 到底花になど興味を持ちそうにない野郎共までもが
 どことなく浮かれているのが、
 何となく、不思議な程に。


「何つーかさ、」
 グラスを口に近付けながら、サンジが呟く。
 月は下弦、風は僅かに。酒宴には格好の夜だ。
 どうせ、ザルなのだから構わないだろうと、普段であれば全く逆の事を言う筈の料理人に誘われた。
 妙な所で細かい男だ。見張りの役目を放棄する事を許すなど、珍しい事もあるものだと言った所、
「ナミさんやビビちゃんに二日連続で夜更かしさせるわけにはいかねえだろ、」
 と、昨夜の、花見と称した宴会を呪っていた。
 男二人のささやかな酒宴のきっかけなど、此だけあれば十分だ。
「何だよ、」
中途半端に呟いたまま、黙り込んだサンジに続きを促す。
「俺達の日常っつーのはさ、花がどうのでどうこうする様なもんじゃねーだろ、」
 僅かに朱に染まった顔で、此方をじっと見る。
「日によっちゃ今みてーに飲んだりもするけどよ、いつ何時
戦闘が始まってもおかしくはねーし、常に危険と隣り合わせなわけだ。」
 確かに、其れが此の海での日常だ。
「其の中で、それぞれ途方もない野望を掲げて生きてんだ。花がどうこうじゃねーだろ、実際。」
 だが、こいつが其れを口にするのはどうもらしくない気がした。
「其れで、」
 しかし、其の違和感は、返された笑顔に一蹴された。
「良いよなあって。」
 手放しの喜びをたたえた表情に、一瞬だけ、呆気にとられた。
「何だそりゃ、訳分かんねーよ。」
「俺にだって分かんねーよ――― 、」
 微量であれ、酒が入っているからかも知れない。
 へら、と笑みを浮かべた酔っぱらいとの会話を諦めて、グラスに手を伸ばす。
「あ、そうだ。」
 飲み干そうとしたが、サンジが其れを引き留めた。
サンジはグラスを置くように促し、其れに手を伸ばした。
 其の手が放れると、グラスの中には花が一つ、浮いていた。
 白い、小さな五枚の花弁。ナミの蜜柑の花である事はすぐに分かった。
「何しやがる。」
「今日のデザートに使った分の余り。丁度三つ余ったんだ。」
 納得しかけて、矛盾に気付いた。数が合わない。
「三つ、」
「ああ。」 
其の疑問を予想していたのだろう。自分のグラスを手にとりながら、答える。
「一つは、お前に、」
 そして、同様に花を浮かべる。
「もう一つは、俺に。」
サンジの右手には、蜜柑の花がやはりもう一つあった。
「そして、」


「此の素晴らしき世界に、」


 夜空に、白い花が舞った。
 其の真下で、グラス同士が触れ合う硬質な音が響いた。



世道さんに捧げたネームです。
彼女は、此とは比べものにならない程ラブな漫画を書いてくれました。
ある意味才能だね。アレは。