矮小な箱の中の永遠
夜の曇り空は、時に妙に明るい。
一体どう言う仕組みなのか、月も星も隠れて居ると言うのに、雲の切れ間やら薄い層やら、そう言うものがはっきりと見て取れる事がある。
唯でさえ眠気との戦いに苦労する不寝番、
そんなものをぼんやりと眺めて居たら、下方からマストを登る音と気配に気付くのが遅れた。
「寝てただろ。」
咥え煙草で器用に喋りながら、サンジが見張り台に顔を覗かせた。
「……寝てねえ。」
少々やばかっただけだ。
言い訳じみた事を、口には出さずに呟いた。
「昼間あれだけ寝腐ってて、未だ寝足りねえのかよ、」
逆に疲れねえのか、心底不思議そうに首を傾げる。
「別に。」
俺からすれば、お前の方が余程奇怪だ。
そう返すと、
「お前と違って低燃費なの、俺。」
いまいち自慢なのかどうなのか分かり難い台詞と共に、はン、と鼻で笑われた。
「ホレ、差し入れだ。」
見張り台に肘を乗せて、其の手に持って居たバスケットと酒瓶を差し出した。
其れを受け取ると、其のまま下に戻って行くかと思った手は見張り台に引っかかって、
「よっと、」
サンジの体を引きずり上げた。
「ンだ、ナミはどうしたよ。」
「もうお休みになったに決まってんだろ、ハゲ。」
じゃなかったら手前の面なんぞ拝みに来るか、馬鹿め。
見張り台の柵に腰掛けて、紫煙をふっ、と吐き出す。
「あーそうかい。」
基本的にナミとゾロの夜は遅い。
……正確に言うと、残りの面子の夜が早い。
朝から晩まで全力で行動するルフィ、ウソップ、チョッパーが(盗み食いと言う特殊事情を除き)日付が変わる前に此れも又全力で眠りにつくのは当然の事であったし、
ロビンはロビンで、寄航する度に大量に購入して来るやたらと分厚い本が彼女を寝室で待って居る。
其の為、超、が付く程の酒好きである上に、片方は明らかに睡眠過多であるとは言え、ナミとゾロの夜が遅いのは絶対的なものと言うよりは相対的なものである。
結果、キッチンには殆ど毎夜、似た様な顔が揃う。
そして今夜は不寝番であった為に容赦なくキッチンを追い出された。
先刻迄、キッチンから阿呆の様な笑い声がして居たのは違いない。
此方で一人虚しく眠気と闘って居る間にお開きになったのだろうか。
名残惜しそうに女部屋の方に視線を遣るのが気に入らず、其の手を引き寄せた。
「……何。」
格段に近くなった距離で、其れでも与えられるのは迷惑そうな呟きだ。
まあ、其れで構う様な神経の持ち主では無いから、此の距離を許されて居る様な気もする。
サンジの腕から離した右手を、見た目よりもしっかりとした腰に伸ばす。
其のまま、―――言うなれば平生の流れでもう片腕を頬に触れさせようとして、
「あ。こっちは駄目だ。」
サンジ自身の右手に阻まれた。
「……何で、」
「減る。左は良いけど右は接触禁止。」
目が据わるのを自覚する。
「手前、ナミに何させてやりやがった。」
「秘密。」
「煩え、俺にもさせろ。」
「気持ち悪くて多分死ぬから勘弁してくれ。」
真顔でサンジが眉を顰めた。
「……、」
む、と無言で不満を述べると、今度は困った様に笑い出す。
「だってやだよ、手前がお休みのチューなんて。」
想像したらしい。
苦笑だった其れが、段々単純な笑いに変わるのが分かる。
無理も無い、無いが、
「お前、もうちっと伝わってても良いんじゃねえのか。」
言い様、自棄糞で其の首根っこを引き寄せる。
勢いをつけすぎて、がち、と火花を散らすのを無視して深く口付ける。
暫くしてサンジが其れに答えるのを感じる。
単純だ。
だからいつ迄経ってもこうなのだ、自分達は。
「妬いただろ、」
「悪いか、」
「悪ィよ。折角綺麗な思い出で今日を終えようと思ってたのによ。何書き換えてんだむっかつく。」
「煩え、ちっと黙れ。」
「もーやんなっちゃう。魔獣の面倒なんてきっついばっかで。」
其の科白の割りに愉快そうな笑い声が、夜空に踊って消えた。
| や……やっと書けた!!もー本当にご免なさい半年位締め切り破りました!! 30000ヒットリク「ナミサンに嫉妬するゾロ」でございます。 蜜柑さん、宜しければお納め下さい。煮るなり焼くなり……!! しかし、こんなんで良いんだろうか……。相変わらずの一方通行、気がつけば悪化していないか……? |