不忘野之花





 ゾロの固い掌が首筋に触れる。
 其れに答える様に目を伏せた。

 触れる様な口付けの合間にゾロの名を呼ぶ。
 帰ってくるのは繰り返す口付けばかりで、
 其の唇が自分の名を呼ぶ事はない。
 いつもの事だ。
 分かっている。

 ゾロが自分の名を呼ばない理由は知っている。
 いつの間にか、分かってしまった。



(そんな、大層なものじゃねえのに。)



 無意識に浮かんだ笑みに、ゾロが顔を顰める。
 罪滅ぼしに、此方から深く唇を重ねた。



 其れ迄首から上ばかりを触っていた両手が、下に降りる。



(何で、)



 こんな事を許してしまうのだろう。

 まるで疑問に思わない訳じゃない。



 快楽とか捌け口とか、
 そんなものを希んではいない。

 直後の喪失感とか虚無感とか、
 ましてや其れ等を覆い尽くす様な充足感なんて。



 其れでも、
 多分、愛おしいと思っている。



 野望の為なら全てを投げ捨てられる此の男を、

 人を掻き乱すだけ掻き乱しておいて平然としている此の男を、

 まるで思い通りにならないくせに、
 自分の名前なぞを後生大事に取っておく此の男を。



 張りつめた空気の中で、波の音だけが遠くに聞こえる。



 ゾロの首に両腕を絡め、其の耳元に唇を寄せる。
 其れでも聞こえるか否かの声で、呟いた。



 其れしか繋がる術が無いのなら、早く。



取り敢えずタイトルが大のお気に入りです。
此で、「わすれずのののはな」と読みます。