秋晴れ



秋晴れは常に清々しく
高い空は墜落する勢いで青かった。
こんな日は何処か遠くへ行きたいと思わせるには
絶好の日だった。
上着のポケットに有っただけの金を入れて
ケータイは部屋、多分丸まった布団の何処か。
鍵は尻ポケットに押し込んで。
最寄駅に着いた電車に何気なく乗り込んで
流れる風景を見つめていると
自分の日常も流れ出ていく。
窓に映る自分は誰が見ても金パツの遊び人だった。

一週間前、ナミさんと部屋でレンタルの映画を観た。
10年後の約束
別れて でも忘れられなくて、そしてまた出逢い 結ばれる
そんなラヴストーリー。
仄かに情熱を称えて流れるエンドロールを見ながら
「日本人てハッピーエンドが好きよね」
 と、冷静に俺の作ったカクテルを口に運ぶナミさん。
「皆、幸せになりたいのね」
 テレビ画面がレンタルビデオの“お断り”
(無断転写・転機は一切禁止…とかゆー警告文。あるでしょ?)
を表示して、やがて真っ黒い画面に綺麗で冷静な女性と
何処と無く踏ん切りの着かない風体のヒョロい男を映し出していた。

上映していた頃は映画館へ行く時間さえ無かった。
忙しい、季節だった。

「ちゃんと寝てる?」
ひょっこり顔を俺の視界に入れてきたのは
髪が肩に着くか着かないか位の長さで、大きくクリっとした瞳、
顔には未だ幼さが残るが、至って性格はしっかりしている女性
ナミさんだった。
「寝てますよ、2時間。昨日と今日合わせて」
俺より年下なのに何故か敬語を使ってしまう。
自然に出てくるから直そうとは思わなかったし、
彼女も何も言わなかったので、そのまま…付き合いは長い。
「“ちゃんと”寝てないじゃないのっ」
街中のファーストフードの二階の窓側の席。
空間は他の客の雑音と店内に流れる有線で一杯だった。
「こーゆー味って飽きるわよねー」
手に取ったポテトを弄びながら彼女は行き交う客の流れに目を向けた。
「太るし、健康に悪いし美容に良く無いし。」
「だったら、俺ン家においでよ」
今月で決まるんだ。免許とか、独立の話とか―――
そう何気なく話を続けた俺。
この人には何でも話した気がする。
母親に捨てられ、父親は音信不通。
その父親は英国人で、小学校ではそれで虐められ
中学では逆に虐めて、ケッコー悪い事もした事と、
高校はソレに飽きて色気づいたって事ととか
育ててくれた人は老齢だけど、現役の料理店のオーナー兼料理長である事や
その影響で俺が料理人である事
今、その保護者と独立して店を開く事で揉めてるって事も。
ナミさんは何でも知ってる。
「映画、観たいな〜」
俺の言葉を無視して今度は窓から透過する街並の風景に目を投じた。
「ほら、テレビとかでウルさい程やってる恋愛モノ。
あれ 観に行かない?」
「フィレンツェが舞台の?
 癒しブームか何か知らないけどさ、
 ENYA 使い過ぎだよね、マス・メディアはさ。」
「私は好きよ。
 久石譲ほどではないけど。」
彼女はクスリと笑った後、こちらを向いた。
その頃の彼女は、淋しげな影を浮かばせながらも
綺麗だった。

『梅が丘〜〜梅が丘〜〜です。』
あの映画の舞台の一つだった地名がアナウンスされる。
乗り込んだ京王線から新宿で小田急線へ乗り換えた。
ナミさんのあの影の原因を少しでも解ろうとしなかった自分を
今更ながらに後悔している。
あの時期、忙しかったけれど一日と空けずに彼女と俺は会っていた。
彼女は俺と居たかった。
その理由が彼女には在ったのだ。
どうして気付いてやれなかったのだろう
忙しいなんて言い訳にもならない。
自分の事ばかり 押し付けるように話して
相手の言葉を聞いて上げれなかった。

人と人とのコミュニケーションには必ず何かのサインがある。
気にならない程のタメ息や
合わさない目線や
細かな仕草。

隠そうとしている様子は暴いてくれと頼んでるよう

「サンジ君の馬鹿」
彼女の精一杯の言葉に顔を上げる。
「サヨナラなんて言ってあげないわ
 私の気が晴れるまで ずーーっと、ずーーーっと
 付き纏って困らせてやる。ストーカーになってやる。」
涙で潤んだ瞳は、それでも毅然と俺を見据えていた。
外は雨が降っていた。
彼女が初めて俺の部屋に来た日の出来事だった。
キッチンで彼女のために温かくなる物でも、と作っていた最中であった。
「あの映画、もう公開終わっちゃったの」
「ナミさん」
「馬鹿」

プロロロロロロロロ――……

発車する前の音が鳴り出した。
窓の外は随分と淋しくなっていた。
高層ビルはドンドン少なくなって、その分チラホラと緑が増えてきた。

プシュウ…

ドアが閉まり、電車が動き出した。
ホームからどんどん消えていく電車を見送って
とうとう完全に見えなくなってから、俺は無人のホームの椅子に
どっかりと座った。電車の中は暖房で温かかった所為で
余計にホームの寒さが堪えた。
ホームの時計の針は三時過ぎを回った処であった。
どうせ もう直ぐまた電車が来る。
乗る気は無かった。今は気が変わるまで座っている事にした。

あの日からナミさんは姿を現さなかった。
俺も無理に会おうとはしなかった。彼女に悪い気がしたから。

無理にでも、強引にでも会っていたら、
何かが変わっただろうか
頭を下げて謝罪して、違うラヴストーリーの映画を一緒に観に行って
「ハッピーエンドで安心した」
とか言いながら同じ部屋に二人で帰る。
「サンジ君」
呼ばれて振り返った俺に、ニッコリ笑う彼女は
恐ろしく綺麗だったに違いない。

きっと、何も変わらなかった。
俺が彼女を恋人として見ない限り。
そしてそれは無理な注文だった。
彼女は俺にとって恋人以上の存在で
それ以外には成り得ない存在だったから。

一週間前、突然目の前に現れた彼女は
「あの映画 レンタルして来たから観ましょ」
と、一本のビデオを掲げた。
カクテルを飲み干した彼女は
「知り合いにね、食い意地の張ったのが居て、
 そいつに君の事話したら是非食べたいって。
 もちろん、『貴方を』じゃなくて『貴方の作った料理を』ね」
そう言って笑う彼女は、普通の美人な女性だった。

『三番線に電車が参ります。
 危ないですから白線の内側まで下がって――』
何回このアナウンスを聞いているだろう。
何本目かの電車が来る。
もう日も暮れて視界が暗くなってきた。
がくんと冷え込んだ外気に「そろそろ動かないと」と思いながらも
体が動かない。入ってきた電車の風でブルッと身震いをして
目の前の路線に停車している電車の開きそうなドアを見つめる。
聴き慣れた音を立てて開くドアから
寒さに身を硬くし早足ででてくるサラリーマンやOLの群れ。
まばらでも黒い頭の流れの中に突飛な色の頭が一つ、
こちらに向かった来た。
「この…プータロー…ッ」
見るからに怒りの色を称えた瞳で俺を見下したヤツの頭の色は
もう随分と見慣れた緑色をしていた。
「よぅ…バイト帰り?」
そんな筈では無い事は百も承知なのに相手の怒りの色を濃くする言葉を吐く。
「部屋の鍵返せ、居候…入れねーだろぅが。」
「……返すのは鍵だけでいいの?」
「! 他に何盗ったんだ、コノヤロウ…ッ」
とうとう、額に血管を浮き上がらせて俺の胸グラを掴んで持ち上げる。
「……筋肉バカ。」
「あぁ?!」
怪訝な顔をして小馬鹿にした様な言い方で言うと、予想通りの返答をする。
いちいち俺の言葉に反応する様が面白い。
「俺の飯が喰いたいんなら正直に言ってみ、ん?」
「…………
 鍵を返して、盗った物を出せ。」
「コンポの下にヘソクリってぇのは考えものだ、宿主よ。」
「!!!!」
男は単純でからかい甲斐がある。
女性から観た男ってのは単純過ぎて、逆に解らないのかもしれない。
女性は複雑なのが普通だから。
「明日っから店開けようと思うんだ」
ずっと閉めてた俺の店。
ランチが結構評判で、日差しが差し込む店内を
来てくれる女性客がより一層明るくしてくれる。それが毎日だった。
のどかで楽しい仕事場。
「あっそ」
素っ気無い相槌を打って胸グラを掴んでいた手を離す。
コイツは俺の過去を知らない。話した事が無いから。
彼女に対するように俺が話していないから。
興味が無いのか、あえて聞かないでくれているのか…
「帰るぞ」
向かいのホームへ移動すべく階段に向かう緑頭。
何も聞かないくせに言って欲しい事は言ってくれる。
俺もこうだったなら、彼女とどういう関係を築けただろう。
少なくとも、彼女にあんな台詞は言わせなかった。
「うー〜〜っ!寒ぃなぁ…」
数歩前を歩く緑の独り言を合図と言わんばかりに
トトッと駆け寄り緑の右隣りを陣取ると、肩で軽く体当たりをして
「俺が温めてやるぜ」
とニヤリと笑って見せた。
緑頭はハーッといつの間にか白くなった息を頭上に吐いて
ズズッと鼻を啜った。
「おでん…かな」
「ハッ 冗談!
 鍋だろっ こんな日は!!」
「なべ?………ん、譲ろう。」
「ウス。」
もうトップリ暗くなって外灯の灯りが無数に点在している。

今も昔も想う事は彼女の幸せ。
俺が幸せにしたかったけど、
俺のやり方は彼女の求めるやり方じゃなかった。

ごめんね。

悪いことをした、という意味ではなく
申し訳ない、という意味で。

「今日も一日 風を歩いてきた」

そして、今日でそれが最後である事を悟る。
彼女の中で時間は確実に流れていて、
あの映画の主人公達の様なハッピーエンドは
俺達には無かったって事で彼女は納得してるのだろう。

風を歩くのも今日で終わらす。
きっと彼女はこれから俺の店の常連になって
俺の話を聞いて、ニッコリと普通の美人の笑顔を向けてくれるのだろう。

そう思ったら、
自然と涙が溢れてきた。





はい、どうでしたか?
文だとどうしてウチのサンジさんは普通なんでしょうネ!
サンナミなナミサンなサン←ナミ+ゾロみたいな。
ばりばり、『冷静と情熱のあいだ』を観た後に書いたって感じで!(大笑)
結局はルナミで。
ゾロサンというよりは、ゾロ+サンジとして読んで欲しい…。
あくまでもただの同居人…っつ―か居候と宿主、みたいな。
この二人の出会いとかは想像におまかせ。
店閉めてた理由を実はゼフが死んじゃったからにしようとおもったけど、
長くなりそうだし、ゼフ殺したくも無かったので、うやむや(爆)




読みたいと駄々をこねておいた今日さんの小説。
……至福v